2ちゃんねる裁判からいろいろ考えてみる
祝!Yahoo! Internet Guide <インターネット事情通>掲載!
by
お部屋探し達人@武緒淳
目次
1.「インターネットとはそういうもの」
2.先ず、普通の掲示板と名誉毀損について考えてみる
名誉毀損とは?
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一般的に掲示板の管理責任はどこまでとされている?
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「真偽判断」できない管理人
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我々掲示板管理者の取るべき行動は?
3.2ch裁判について考える
動物病院に400万円払え
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完全匿名掲示板に課せられた責任
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立証責任も管理人に
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2chの問題点はやはり完全匿名性にある
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完全匿名そのものを否定する判決
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2chの行方
4.おまけ
原告は対抗弁論で名誉回復を図ることができた?
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削除ガイドラインに従わなかったから自業自得?
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今回の判決は表現の自由を侵す?
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いろいろ言われているけど判決は妥当なの?
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サーバーを海外に移せば今後の管理責任を逃れられる?
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某化粧品会社から合計7億円請求されている
判決理由
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【法律板】400万支払え
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【法律板】DHCから2chを救え
1.「インターネットとはそういうもの」
私はずっとこうおもっていた。「インターネットとはそういうもの」だと。
「そういうもの」とは、ネットは匿名で誰でも情報を発信できることから嘘、間違い、偏見、個人的な批判は「あたりまえ、やむをえない」ということだ。今まで誹謗中傷に近い発言を数え切れないほど目にしてきたが、そのそれが問題になっていることが皆無に等しいという経験(少なくとも自分の見た範囲で)から、発言した責任については今までのメディアよりも負わないという感覚でいた。
ところが、それは錯覚。ネットの情報とは「結果として」野放しになっているだけの話で、掲示板の書き込みも、出版・放送などと同じ責任を負わされる。「匿名性が高い=責任を負わない」ということではない。さらに言うならば、ある意味「インターネット=匿名」でもない。とにかく、2ch裁判はイロイロと勉強になった。
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2.まず、普通の掲示板と名誉毀損について考えてみる
名誉毀損とは?
真偽を問わず、相手の社会的地位を下げるような発言をさす。ただし、その内容が「真実であり公益性があれば違法性が阻却される。例えば、ある弁当屋の弁当で食中毒が起こった。これを公表すれば無論弁当屋の社会的地位を下げることになるが、これには公益性があるから違法性が阻却される。次に、弁当屋のオヤジが不倫していると公表するとどうなるか。これは単なるプライバシーの侵害。事実か否かを問わず名誉毀損にあたる可能性がある。
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一般的に掲示板の管理責任はどこまでとされている?
一般的に管理人の掲示板管理についてはどのように考えられているのだろうか。判例をみると、
@管理者は発言を全てチェックして片っ端から削除する義務は負わない
Aしかしながら名誉既毀損あたる書込みを知った時点で、その削除義務が生じる
つまり、2chを例にとると、管理人ひろゆき氏が全ての書き込みをチェックして随時削除しなくてはならないということではないが、削除依頼があり名誉毀損にあたるものについては削除する義務が生じるということになる。
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「真偽判断」できない管理人。
さて、ここで一つ問題。「名誉毀損にあたるもの」とあるが、その判断はどうすればよいのかということだ。先に述べたとおり、真実であり公益性の認められる場合は名誉毀損には当たらない。例えば、「弁当屋が食中毒を出した」という書き込みがなされた場合、本当に食中毒を起こしていれば、真実であり、弁当屋という食品を扱う店の食中毒情報は公益性が認められる。しかし、この情報が真っ赤な嘘ならば、名誉毀損となるのだ。ところが「事実」であるか否かは書いた本人しかわからず、第三者である掲示板の管理人は判断することができない。結局、一言で「名誉毀損にあたるものは削除せよ」といわれても、削除する対象自体の判断ができないのだ。
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我々掲示板管理者の取るべき行動は?
真実か否かを判断できない名誉毀損と思われる書き込みがなされ、それを管理人が知った場合、管理人はどう対処すればよいのか?
答えは、無条件削除しか残されていないように思える。確かに、表現の自由の面から、真実であり公益性のある情報は削除すべきではない。しかしながら、真実であることを証明するにはログから書き込み者を特定するなど、かなりの手間を要し、削除しないことで管理責任を問われる可能性がある以上、多くのウェブマスターは結局その書き込みを知れば削除するほかないのではないか。自分のサイトの掲示板で名誉毀損が行われた場合、書き込み者を特定できる情報を被害者に提供して誠意を持って対応すれば、実際には、突然管理者に損害賠償が降りかかることなんてないのだろうが----。
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3.2ch裁判について考える
以上を踏まえて、2ch裁判をまとめてみた。その前に、とにかく、先ずは判決理由を熟読してくれ。ここまでを読んだ人は大体意味はわかるはず。
>>
動物病院裁判の判決理由
動物病院に400万円払え
この裁判の場合、争点が2つあったと思われる。1つは「書き込みが名誉毀損にあたるかどうか」、2つめが「管理責任を問えるかどうか」。ただ、動物病院のケースの場合、どうやら明らかに公益性のない単なる誹謗中傷表現(えげつない病院・悪徳病院・やぶ医者)が多く含まれていたことから、名誉毀損かいなかはあまり問題ではなかった模様。
2つめの管理責任に関しては名誉毀損をの書き込みを知った時点で削除義務が生じるという
ニフティ裁判
の流れに沿う形である。が、この点について、2ch側は「真偽が分からない時点では名誉毀損にあたるか否かの判断が不能のため、削除義務は負わない」として主張していた。しかし、削除するしない以前に、「真」であるという証明を誰かががしなくてはならず、書き逃げできる2chではいったい誰がその証明をするのかという話になる。
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判決の注目すべき点〜完全匿名掲示板に課せられた責任
今回の判決の注目すべき点は、書いた張本人は蚊帳の外で、管理責任として管理人に400万円もの賠償が認められた点だ。この判決の場合、名誉毀損をした加害者と同等の責任を2ch管理者に負わせていると考えられる。裁判所がこの判断を下した背景には2chのスピリットである「完全匿名」という特別な事情が絡んでいるようだ。
完全匿名性で、加害者の特定が物理的に不可能であるというシステム上の問題を裁判所は指摘した。いうまでもなく、名誉毀損をした犯人とは書き込み者本人で、管理人はその場所を提供しているに過ぎない。しかし、ログを取得せず、犯人特定の手がかりを得る手段を管理人が積極的に放棄し、かつ削除という管理行為も行わないならば、その矛先は管理人に持っていかざるをえないという判断を裁判所は下した。
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立証責任も管理人に
加えて、名誉毀損は「事実であり公益性があれば違法性が阻却される(前述)」。しかし、先にも述べたように、その証明をしなければならず、今回の判決によると、投稿者が不明な以上、事実であるという証明も責任と同様、管理人ひろゆき氏がしなければならないとしている。「削除しないならオマエが公益性を証明しろ」というわけだ。無論、第三者の管理人に立証のしようがない。結局のところ、完全匿名で書き込み者の特定がそもそも不能な2chにおいては、全て削除するしか選択肢が無いはずなのだ。
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2chの問題点はやはり完全匿名性にある
やはりポイントは匿名で運営するには大きくなりすぎた。ということに尽きる。
まず、巨大な体に比較して削除体制が不十分という点。もし、名誉毀損発言があっても完全に削除で対応すれば問題は生じない。ところが2chのメンテナンスをしているのは削除人と言われるボランティアだ。ノルマもなければ、義務もない。まして、名誉毀損に当たるか当たらないかの判断を各削除人に判断せよということになると、依頼に全て目が通されていたとしても取りこぼすことは確実と言ってもよいだろう。
次に、削除の基準の問題。問題の多くは「企業叩き」であるが、「真偽不明な書き込み」をどうするのか。従来どおり放置なら事実を証明できない以上、訴えられればほぼ間違いなく動物病院の判決のとおりになる。
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完全匿名そのものを否定する判決
また、動物病院の判決をから解釈すると、完全匿名の2chにおいては、自作自演(詐欺)も可能である。例えば、「あの弁当屋は食中毒を出した」という情報を弁当屋のオヤジ本人が書き込み、自分で削除依頼をする。これを真偽不明として管理側が放置すればしめたもので、弁当屋は事実無根として損害賠償を「管理人に」請求できることになる。こういうことができてしまう判決がおかしいという意見があるが、そうではなく、「完全匿名」というシステムそのものを否定されたと考えるべきだろう。つまるところが、2chのスピリットを否定されたに等しい判決なのだ。
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2chの行方
大きくなりすぎた2chが危なげなく運営できる条件は以下二つを満たす必要がある。
・完全匿名性の排除
加害者=管理者の図式を防ぐ、自作自演などの矛盾点回避、問題発言への牽制。
・書き込みは管理側の判断で自由に削除可能とする
依頼のあった真偽不明のグレーな名誉毀損発言はことごとく削除。
完全匿名性である以上、2chユーザーの誹謗中傷は何の牽制もなくとどまることを知らない。これに対して削除依頼がなされたとしても、発言の真実性を証明することは出来ないから、削除しない場合は、その全責任が管理人であるひろゆき氏を直撃する。積もり積もって天文学的な賠償金を請求される可能性すらある。
ひろゆき氏のスピリットは支持したい。しかし、もう「完全匿名」の限界が来ているといわざるおえないだろう。
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'02.08.02 jun takeo
●2CHついにIPを記録。完全匿名に幕
名誉毀損をした本人が悪いのは明白、しかし、従来の2chではその本人を特定することが物理的に不可能な上、かつ削除体勢が不十分であるが相乗して、管理人が管理責任を問われた。これに懲りたのか、2CHは本日よりIPを全板で取得開始。つまり、上記条件の完全匿名性を排除したのだ。ただ、間違えてはいけないのは、あくまでもう一つの条件を満たさない限り、なんら変わりがないということだ。例え相手が特定できたとしても、削除権を持つものが管理側にしかいない以上、放置すれば、管理責任を問われることは従来どおりだ。
なお、本件は高裁でも敗訴している。
03.01.10 追記
4.おまけ
原告は対抗弁論で名誉回復を図ることができた?
一般的には弁論には弁論で対抗し、名誉回復を自ら図ることができる。つまり食中毒を起こしたと掲示板に書かれていた場合、弁当屋が自ら起こしていない証明を掲示板ですればよい。
しかし、今回の件に関しては、やぶ医者、えげつない病院などの中傷発言に反論すること自体現実的ではない。法律板でなるほどという例えがあったが「電信柱にオマエの母ちゃんでべそと書かれたことに対して、わざわざでべそではないことを書き返すようなもの」。そもそも、どこの誰だかわからない匿名の不特定多数の2ちゃんねらーVS特定された動物病院とその院長。対等ではない。
よって、この件に関しては無理。
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削除ガイドラインに従わなかったから自業自得?
動物病院側は2ちゃんの定める削除ガイドラインに従わなかったため削除されなかった。という一面もあるようだ。2チャンネラーから言わせれば自業自得という意見もある。しかし、削除ガイドラインはあくまで2ちゃんのローカルルール。関係ない。
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今回の判決は表現の自由を侵す?
いろいろ言われているが、完全匿名を否定することと表現の自由は直接的には関係がないのでは?この判決を機に、様々な掲示板の管理者が萎縮し、真偽不明な中傷表現を従来よりも安易に無条件削除することになるという間接的な変化をもたらすというならまだわかる。しかし、「匿名は発言するな」という判決ではなく、「匿名の発言」を認めたうえで「誰が責任を取るのか」を争ったわけで、「表現の自由」という言葉にリンクすること自体が疑問。
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いろいろ言われているけど判決は妥当なの?
妥当もヘッタクレも、例えば自分の悪口が掲示板に書かれた場合を考えてみよう。多くの人が見る掲示板で、自分の実名を挙げられ誹謗中傷された。そして管理人に削除を要請しても「真偽不明だから削除しません」といわれる。このとき、あなたは何が問題と考えるだろうか。表現の自由だから仕方がない、ネットだから・・・では絶対に済まさないはずだ。
判決の趣旨を被害者にかわり代弁すると、「真偽の確認のしようがない、完全匿名のシステムにしたにしたのはあなた(管理人)でしょう。削除できるのはあなたしかいないんだから、消してくださいよ!」っということだ。
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サーバーを海外に移せば今後の管理責任を逃れられる?
探偵ファイルのインタビューに、ひろゆき氏は生き残り策の一つに海外移転という最終兵器がある的な発言をしているが、管理者が日本国民であり、日本人を対象にしている以上無駄。これは無修正エロ画像OKのアメリカにあるサーバーを使ってエロサイトを開設していた日本人が摘発された例を考えると理解しやすい。もう5年も前の話。管理者そのものを外人に変えてしまっても実質だれが運営しているのかが問題。
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某化粧品会社から合計7億円請求されている
・6億円の巻
大手化粧品会社からスレッドを削除しなかったことに対して訴えられた。しかし、名誉毀損に当たるかどうかを一応審議された動物病院のケースとは異なり、該当化粧品会社スレッドにおける名誉毀損が既に裁判所により認定されており、削除を命じる判決が下っていた。管理責任を認めた動物病院の判決を考えると、今回のケースはどうみても旗色は悪く、「6億円がいくらになるか」ぐらいしか興味深い点はなし。
・+1億円の巻
のこり1億円は管理人ひろゆき氏が発行したメルマガの内容が名誉毀損だということで訴えられた事例。先の2例と異なる点は、「匿名の名誉毀損のある掲示板の管理責任」ではなく「ひろゆき氏本人が行った名誉毀損行為」。したがって、もはやネット云々という問題ではないし、真新しい論点もなし。
詳細は、該当化粧品会社の製品に、「枯葉剤に使われる成分が混入していた」という新聞報道があった。これをひろゆき氏が発行するメルマガで「食品に枯葉剤を入れた」と発言。これに対して「枯葉剤」そのものを「混入させた」訳ではない、というのが化粧品会社の主張。私ですら問題の部分が配信がされた瞬間に「おいおい。こんなこと書いて大丈夫かよ」と思ったくらいだ。
今回の件ではひろゆき氏が「枯葉剤そのものである」と誤認するような相当の理由がない限りアウト。
冒頭でネットの名誉毀損発言は「結果として野放しになっているだけの話」と述べた。つまり、通常の感覚ではこの程度のことは黙認されているのが常。しかし、今回は「裁判の最中に」しかも「訴えられている相手」に対する発言を「10万人」のメルマガ読者に発信したのだ。黙認されるはずも無く、これはひろゆき氏の認識が甘すぎたと言わざるおえない。
●6億円部分に対して2003年7月に判決が出た模様。結果は6億→500万円でした。なお、1億に関しては係争中。刑事告訴されているようだ。
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でもね。
個人的には、ひろゆきに、私がネットに出会ったころのもっと自由で、気ままで、ちょっぴりアングラ?な「インターネット」のおもしろさを取り戻してもらいたい気持ちもあります。
彼が裁判で戦っているのはそんな私たちの気持ちを代弁してくれているようにさえ見える。そして、たった一人で頑張っている彼に最大限のエールを送りたい。
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